RFM分析は広く顧客分析の方法として使われています。しかし一方で、「RFM分析では何も見えない」と言う声も聞かれます。分析の現場、意思決定をする人たちの間では、意外に言われることです。現場では、そう理屈通りには行きません。手前味噌ながら、私が三段分析を考えたのもこれが理由です。
なお、このD.ORG DRM(ダイレクトマーケティング)について話そう!は、DRMについての込み入った話をする場、というのがコンセプトですので、RFM分析とは何か?についての解説は最小限に留めます。ネット上にはRFM分析についての解説がたくさんありますので、初心者の方はそちらをご参照ください。
※本論では、RFMランクについて、例えばR=5, F=5, M=5の場合は、RFM=555ではなく、R5F5M5と表記します。
1. はじめに
RFM分析は元々POS(販売時点情報管理)から生まれた方法です。POSとは、簡単に言えばレジで入力された情報です。とても古い分析方法です。
私からすれば、元々は顧客データを伴わない分析方法なので、これはマスマーケティングだと捉えています。
顧客データを100万件も持つ企業からしますと、やはりマスマーケティングに近い、というのが実感かと思います。
顧客数が100万もあると、企業はすべての顧客に対してプロモーションを行うのが難しくなってくるため、どこまでをプロモーションの対象とするのか?ということのためにはとても便利なわけです。
ところが、私がいたダイレクトマーケティング専門エージェンシーではRFM分析はほとんど重視されなかったように記憶しています。それよりも、いかにしてテストプログラムを組むか?そこに注力しており、私はそのための徹底した訓練を受けました。
そのためか、RFM分析がダイレクトマーケティングか?と言われると、私はかなり違和感があります。
しかし、矛盾するようですが、私が考案した三段分析でも、まったくRFMの要素がないかというとあるので、真っ向からRFM分析を否定するつもりもありません。
顧客分析を扱うDRMer(ダイレクトマーケター)としては、「RFM分析はあくまでも、顧客分析の方法のひとつ」として見るのが良いのではないかと思います。
あるいは、RFM分析はDM(ダイレクトメール、カタログを含む)やメルマガを出すときの足切基準。特にDMは予算との兼ね合いが強く出ます、発送数の上限を決めないといけません。そうしたとき、後述する図1に示すように、各RFMセル毎の顧客数や売上高などは意味が出てくるわけです。ただ、それが分析と言えるのか?というと問題が出てきます。
2. RFM分析の問題点
冒頭で示したように、RFMは元々、POSから派生したものです。そのためまず、商品がたくさん流通し、低額商品でかつ、商品サイクルが短いものに向いています。
RFMとは、Recency(直近購入)、Frequency(購入回数)、Monetary(累積購入金額)を3次元にクロスさせることによって顧客をとらえようとするものです。ここから出される数値に意味合いが出てくるのは、簡単にいえば、リアルでもオンラインでも、レジのある業界。
そして私の感覚では、RFM分析が役立つのは、購入単価が3,000円から5,000円程度の場合で最低でも年商10億以上。しかし、これに当てはまる場合でも、さまざまな問題を含んでいます。
2-1. 業種、商品によっては意味がない
例えば、自動車や不動産を売ろうとします。この場合、直近購入といっても、4年前、10年前だったり、購入回数も生涯で数回であったりします。すると、RもFもないわけです。 もちろん、そろそろ買い替えの頃の顧客を抽出する、と言う目的ではR、F、Mは意味が出てきます。
2-2. レンジ幅が異なる
これはシンプルなことですが、何故かこれに言及する人がいません。
図1はRFMを構成した一例です。超優良、優良・・・離反などの定義はその企業や分析者によって異なります。また、R、F、Mのレンジ幅はその企業や分析者によって設定が異なります。
ここで一つ問題が出てきます。各レンジ幅が異なる、ということです。
※図はあくまでも一例です。企業、商品、分析者によって、超優良、優良・・・離反などの分類定義は異なります。
図1は、RFMの基本型とも言える、R×Fです。ここでは横軸Rも縦軸Fも5段階に区切っています。上記のような、RとFの区切り方はよくあるパタンかと思います。
<エクスキューズ>
ただし、このケースにおいて、R5の中でFが20回購入と言うのも無理があります。また、離反の基準を24カ月に置いているケースも多いので、Rのレンジをもっと長く設定したり、Fの5を10回程度にするなどの場合もあります。
Fが低いからといって新規顧客と定義している例が散見されますが、新規とは限らないです。
<話を元に戻します>
しかし、横軸のRには、各レンジ幅に期間の違いがあるのです。図中、紺色の数字にあるように、直近購入1カ月以内は1カ月、しかし、1~3カ月は2カ月、3~6カ月は3カ月、6~12カ月は6カ月、12カ月以上は7カ月以上~その企業が続く限りは永久。
図2aはRのうち、F5のみを切り取ったものです。それぞれ月数がありますから、単純にR4はR5の倍、R3はR5の3倍と増えていって当たり前なのです。
もちろん、実際のデータはこう綺麗にはいきませんが、ここで言いたいのは、レンジ幅の違いがもたらすリスクを認識しておいた方がいい、ということです。
そして図2bでは、これを月の長さに修正してみます。そうです。面積の大きさに比例しているわけです。
いずれにしても、
元々月数が異なるということは、単純な比較はできないわけです。
図1のケースでは、Rなら月あたりで比較しないと違いが分かりません。
また、月あたりにする、ということは平均を出す、ということですから、図2が示すような感じになるわけです。
もちろんこのケースでは、Fはレンジ幅が同数なので問題がありません。
2-3. レンジを同じにした場合
2-2. では例えばRなら、「レンジを同じに評価するために、月あたりにするべきだ」、と書きました。しかし、これでもまだ問題は残ります。詳しくは3. にて示しますが、
同じレンジでも、期間が長くれば、初めの月と後の月とでは大きく違ってしまうことがあるからです。
ここが顧客分析が一筋縄ではいかないところです。なぜこのようなことが起こるのか?それは、
RFMのレンジ幅が人為的なもので、顧客都合ではないから
CPOなどの一人あたり換算の場合はどうなるでしょうか?この場合ならうまくいきそうですが、やはり、「顧客都合ではない」ということによって、同様なことが発生します。
2-4. RFMランクが低いところが休眠、離反とは限らない
今度はR×Mの図で考えてみます(図3)。ここでも、Mについて、やはりレンジ幅が異なるように設定しているケースが多いと思います。この例では、購入金額によって顧客ランクを変えているため、それに合わせたレンジを設定しています。顧客ランクとは、よくある、ゴールド、シルバー、ブロンズ・・・といったようなものです。
しかしここでも、単純な比較は難しいです。
※図はあくまでも一例です。企業、商品、分析者によって、超優良、優良・・・離反などの分類定義は異なります。
さて、この図で定義している顧客分類は果たして正しいでしょうか?と言う根本的な問題です。
<エクスキューズ>
ここでも、M2とM1が新規顧客と言えるかどうかは無視します。
<話を元に戻します>
R5(一カ月以内)においてM4(9万円の購入)のAさん、R2(6~12カ月以内)でM5(11万円の購入)したBさんの違いはいったい何でしょうか?
前者Aさんの場合は毎月1万円を11回購入し9万円なりました。つまり、R5M4で優良顧客と判定されました(ただし、図1のFを考慮すると、R5F3M4となります)。
一方、後者Bさんは前回から10カ月後に11万円を1回のみ購入しています。つまり、R2M5でこちらは休眠客と言う判定です(図1のFを考慮すると、R2F1M5となります)。
Fを考慮してもしなくても、Aさんの方がRFMランクは明らかに高そうです。しかしどちらも、年間では購買金額はBさんの方が上です。売り側からするとどちらが嬉しいでしょうか?
Aさんは日常的に身の回り品を購入するのにこのお店を利用していて。Bさんは毎年単価の高いもののみをこのお店で、と決めていたとしたら、LTV(顧客生涯価値)は明らかにBさんの方が高くなります。
RFMだけで判断をしてしまうと、このLTVの高い、上顧客をカットしてしまう、という逆転現象が起きる可能性が出てしまうわけです。
これとは反対に、R5は本当に超優良顧客なのでしょうか?私からすれば、一番離脱しやすいのがここだと思うのですが・・・。
そうです、RFMはまさしくPOS、販売時点を管理するもので、顧客の行動を追跡していないのです。
ちなみに、RFMのうち、Rが重要だ、Fが重要だ、いや、Mが重要だ等、色んな説があります。しかしこのような例を考えると、何が重要だと感じるかは、その分析をしている人が経験した事例による。あるいは、人間は3次元で考えるのが大変なので、知らずのうちに、RFMのうちのひとつをセレクトしてしまっている、と言う可能性もあります。
2-5. 高額商品だけを売った方がいい、ということになってしまう
今、野菜から家電まで売っている量販店があるとします。
ほぼ週に1回、野菜などの食料品、あるいはトイレットペーパーなどの日用品ばかり買っていて、月間(週4回)購入額が2万円の顧客Cさんがいるとします。この場合、CさんのRFMランクは、図1および図3より、R5F1M2となります。Rが高いですがFが低いので新規客とも扱われてしまうこともあり、いずれにしても、決して高いランクではありません。
そのCさんがある日、15万円の冷蔵庫を買ったとします。するとその段階でCさんはR5F3M5、優良顧客と判定されました。さらに、RとMに注目すると、R5M5で超優良顧客となります。
この結果から、高いRFMランクに属するのは、常に高額商品購入者で占められてしまいます。
そうすると、このお店はすべて家電だけにして他は扱わない方がいい、ということになりかねません。
もちろん、このお店では野菜やトイレットペーパーはコンバージョン(見込客から顧客へ転化させる)商品で、家電を購入してもらうのが最終目標だ、と言う考えもあります。
しかし、顧客のタイプはいろいろです。私がこれまでやった分析例では、「顧客はどうもこのお店で購入するものと購入しないものとを決めているようだ」と言うのが見えたことがあります。そう売る側の都合通りに買ってはくれません。
2-6. 回遊顧客がつかめない
手前味噌ですが、私が考えた三段分析では、回遊顧客と呼んでいるものがあります。回遊顧客とは、一定の間隔で、買ったり、買わなかったりする顧客のことです。2-4. でとりあげたBさんのような例です。期間は様々です。
回遊顧客のRFMランクは低くなります。しかし、コンスタントに購入しているので、そのお店としてはありがたい、上顧客なわけです。
2-7. 顧客は入れ替わる
RFMとは何か?と言うのを説明する際、Rの3を基準にして、正規分布曲線を描くことが多いようですが、実際のデータが正規分布曲線になるとは限りません。特にR。というのは、顧客データは離反客を捨てていかない限り、累積されていくからです。
そして基本的には、時間が経つと顧客はそっくりと入れ替わる。
長い時間が経過すると、どんなにそのお店に愛着を持っている人でも、不満がなくても、飽きてしまったり、他にもっと魅力溢れるお店が登場したりして、離脱してしまうことがあるわけです。
それだけでなく、企業の方も実は成長とともに変化していくので、「なんか自分がイメージしていた〇〇ではなくなった」みたいな感じで離れていく場合もあります。
RFMはこうしたことを全く想定していないので、顧客にプロモーションの押し付けをしてしまう場合もあるわけです。
2-8. 統計誤差が考慮されない
顧客データベースが100万件くらいあれば別ですが、10万件も満たない場合、例えばRFMスコアがR5F5M5のセルに属する人が、1,000人も満たなかったりする場合が出ることがあります。母数が少なければ統計誤差は大きくなり、その誤差を考えると、R5F5M5(超優良顧客と定義)とR4F4M4(優良顧客と定義)の違いはいったい何なのか?と言う話になってしまうことがあります。
ちなみにこの経験から、細野の鉄則は、商品単価が3,000円~5,000円程度を想定した場合、
顧客数が10万人に達するまでは、絞り込むな!
絞り込みは売上を下げる!
もちろん、どの会社のプロモーションにも、予算と言うものがあるので、絞り込みが強いられてしまう場合もありますが、予算の許す限り、極力絞り込まない。理由は、これまで述べた通りです。
2-9. プロモーション効果が考慮されない
いっぱんに、RFM分析を導入している企業はRFMランクの高いところにプロモーションをかける傾向があります。プロモーションを行えば基本的には売上が立ちますから(しかし、やり過ぎると効かなくなる)、RFMランクが高いのはプロモーションのおかげであって、顧客志向でも何でもない可能性だってあるわけです。中には、プロモーションのある時しか買わない顧客もいるかもしれません。そういう顧客をどのように評価するのか?
3. RFMの特性、その原因
このように、RFMには、顧客が見えない、大きな問題をはらんでいるわけです。それは何故なのか?
これはまた次の機会に・・・。
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